WiMAXサービスによるシームレスな通信
◆パソコンや情報家電などのIT機器で付加価値サービスを安心して利用できる「ユビキタスネットーク社会」の実現に向けて、避けて通れないのがワイヤレスブロードバンドの構築だと言われている。総務省をはじめいろんな研究機関で今、ワイヤレスブロードバンドの具体像や推進策が検討されている。
日本政府は「世界最先端のワイヤレスブロードバンド環境の構築」を目指すe?japan戦略を展開しているところでもある。そこでクローズアップされてくるのが「WiMAX」という大容量の高速無線通信技術だ。今までは固定無線通信の標準規格とされてきたが、ここにきて移動系で利用するモバイルWiMAX実用に向けた取り組みが進められている。
◆WiMAX(Worldwide interoperability for Microwave Access:ワイマックス)は、ビルの屋上などに設置された基地局と、数km?数十km以内の範囲にある端末との間で利用される。
見通しのきかない範囲にある端末とも通信でき、通信速度や最大距離は変わらず、1台のアンテナで半径約50km(30マイル)をカバーし、最大で 70Mbpsの通信が可能とも言われている。正確には、基地局に近いところで20MHzの帯域を1人が使った場合に、70Mbpsの伝送速度が出るというものだ。
WiMAXで利用する無線通信規格には、固定端末用と移動端末用の2種類がある。固定用は、光ファイバやADSL網等の有線より安価にブロードバンドアクセス網を整備できるとされている。
移動系は、既存の携帯電話やPHSより大容量で、しかも公衆無線LANサービスより広範囲で利用可能なモバイル通信サービスを実現できる。
◆WiMAXは米国で開発されたものだ。
総務省総通信基盤局電波部電波政策課の稲田修一氏によると「米国には電話局からの距離が遠い家庭が多い。日本はあちこちに電話局があってADSLが発展している。しかし米国ではブロードバンドはケーブルテレビが主体である。これは電話局からの距離が遠く、電話線を使ったブロードバンドには無理があったからだ」という。
そうした中から無線で過疎地や電話局から遠い地区をカバーしようといった考えが起こり、そこで開発されたのがWiMAXシステムというわけだ。
これは固定系としての利用だが、これだけではユーザーが少ない。移動通信にも利用できるようにしたのが、モバイルWiMAXなのだ。
「もともと電波をたんさく遠くまで飛ばすようなシステムであるが、日本ではセルを小さくしてマイクロセルにしたほうが使い勝手がいい、と言われてきた。今後は携帯と融合しながら発展する形態、スタンドアローンで発展する形態のシナリオがあるだろうと見ている」と稲田氏。
既存の3Gとの融合利用する形態も現れるものと予想されている。
たとえばこのような使い方が想像される。
「電話とかEZWebとかiモードを使うときには携帯の電波を使うが、パソコンで使うなど、もう少し早い利用には広帯域移動無線アクセスを補完的に利用するといったことになる」
3.5G、4Gといった次世代の携帯電話規格と共に発展していくものとみられている。ラジオ一台でAM、FM、短波などいろんなモードを持っているように、携帯電話も将来は3.5G、4Gなどと融合する形になっていくという見方だ。
携帯電話を利用する場合には、どの周波数を使っているかはあまり気にせずに、使いやすいものを機器が勝手に選んでくれるようになるだろう。固定系や無線LANと融合利用されることも考えられる。
WiMAXを移動系でも使っていこうという動きは、すでに海外で活発だ。米国や英国では2.5GHz帯や3.4GHz帯などの周波数帯を使い、韓国では2.3GHz帯を使用している。米国ではCDMAとともに2.5GHz帯のWiMAXを併用していこうといった動きも見られる。
このように米国から生まれた技術のWiMAXだが、世界のトレンドになろうとしている。
◆KDDI モバイルWiMAXの実証実験の成果公開
移動端末でWiMAXを使うモバイルWiMAXは、KDDIが大阪市内で3つの基地局を設置して実証実験を続けており、その成果の一端が先ごろ公開された。
モバイルWiMAXは、時速120kmの高速移動時でも接続を維持できる。しかも最大数十Mbpsの通信が可能とされている。
KDDIが提唱するワイヤレスブロードバンドは「ウルトラ3G」と言われるもの。構想では、現在提供されているCDMA20001x/1xEV?DO、WiFiといった無線通信方式、ADSLやFTTHといった有線通信方式に加え、モバイルWiMAXなどの新しい無線通信方式を、環境に応じてシームレスに利用できるようにしようというものだ。
実験では、10MHz幅を使用し、下り19Mbps、上り7Mbpsを実現したほか、モバイルWiMAXとEV?DOの切り替え、基地局間(1つの基地局で半径数kmのエリアをカバー可能)のハンドオーバーなどのデモを披露した。
KDDIはモバイルWiMAXを「都市部で3Gを補完する無線方式」としており、今回の実験では、実効的な通信速度や基地局間の高速ハンドオーバーなどの性能を確認し、市街地環境で実用化が可能であることを実証した。
今後は、複数のアンテナを用いて希望する方向に電波を向ける「アダプティブアレイアンテナ」などの高度化技術も検証するという。
ウルトラ3Gが実用化されると、テレビ電話は移動中でもモバイルWiMAXのエリアとEV?DOのエリアを自動感知して切り換え、基地局ハンドオーバー中も途切れることなく利用できる。またHDDレコーダーの高画質映像をWiMAXを介してPDAに送れるようにもなる。
KDDIによると「状況に応じてユーザに最適なモバイルWiMAXなどの移動体ネットワークと固定系ネットワークの通信システムへのアクセスを自動選択できる」という。
さらに画質や音質などの制約があるモバイル端末と固定ブロードバンド環境の双方の利点をうまく利用して利便性を高めるMMD(移動体向けのオールIPマルチメディアプラットフォーム)を使うことで、屋外ではモバイル端末で利用していたテレビ電話の接続を、帰宅後に大画面テレビに接続して利用できることも披露した。
また電車の中ではテキストでメッセージをやりとりし、降りるとテレビ電話に切り替えて話す、といった利用もできるなど、シームレスな他の無線方式との接続は、モバイルということを感じさせない真のユビキタスネットワークを実現してくれる。